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2019年11月 5日 (火)

「日本は消費税ゼロでもやれる」んですか?<その2>

 1つ前のブログでも触れた「税金を払わない巨大企業」という本を書かれている中央大学名誉教授の富岡幸雄氏が文藝春秋2019年11月号への寄稿が問題ありだと思うので,指摘しておこうというお話です。
 
 氏は,P.158以降で法人税の実効税率は29.74%といわれるが,これは19%のイギリス,24%のイタリア,25%の中国より高く,29.83%のドイツ,27.98%のアメリカと同水準だから,「日本の法人税の法定税率は高い方だとは言えるでしょう。」としています。しかし,ジェトロの資料では,シンガポールは17%,香港16.5%といった数字も出ています。かつて,マイクロソフト日本子会社は,マイクロソフトの東南アジア統括の機能を有していました。しかし,今やその機能は,シンガポールのマイクロソフト子会社に移されています。つまりマイクロソフトジャパンは,単なる日本ローカル担当に縮小されたのです。その1つは,英語を話せる人材獲得の容易性だとは思いますが,もう1つはシンガポールとの法人税率の違いではないでしょうか。
 
 ということで,法人税率をもっと引き上げろとは書けないもので,氏は,実際にはこの実効税率に見合った実効税負担率になっていないという主張をされます。たとえば,実効税負担率の表では,本田技研工業の1.23%,三菱電機17.06%,トヨタ自動車の19.25%といった数字を並べられています。本田技研はあまりにも安いと思えますが,これは2018年の数字です。翌年の2019年は,9,793億円の税引前当期純利益に対して,3,030億円の法人所得税費用という科目の計上があり,2018年は,税効果会計などの特殊要因によるものと思われます。また,三菱電機やトヨタ自動車の数字であれば,子会社からの配当金(課税所得にはされない項目)や研究開発への投資減税(税額控除)なども考えると合理的に説明できると思われます。グーグルやテスラ,あるいはメルセデスベンツなどとの研究開発競争を繰り広げるトヨタ自動車などグローバルな巨大企業は,国策的にも彼らに勝ってもらわないといけないので,研究開発への支援などがあってもよいのかもしれません。そもそも,氏の論考では,グローバル企業の税が低いといいながら,海外の企業の名前は1つも出てきません。文藝春秋から与えられた紙面では書ききれないのかもしれませんが,これらの企業群を論じるのであれば,海外との比較もしなければどうにもなりません。トヨタ以上の研究開発費を投じている海外企業は山ほどあるはずです。
 
 そして,氏は,「国内ですぐに是正できる問題として,『租税特別措置による政策減税』と『受取配当金の課税除外』の二つを取り上げたい」としています。しかし,租税特別措置による政策減税については,何年も前から統計資料が取れるような仕組みができており(おかげで,我々税理士は法人税申告書の作成枚数が1枚増えました),それの是非は,国会で判断する話です。研究開発支出が減ったら,世界で戦えなくなるのではないでしょうか。そうでなくても,スマホも韓国,中国,米国企業にほぼ独占され,ガラ携メーカーは撤退に追い込まれています。GAFAのような企業に対抗する日本企業を育成する必要があるという方もいらっしゃるでしょう。
 
 そして,受取配当金が課税所得に含まれないのは,法人擬制説という法人税の根幹である考え方から導き出されるのであり,ここに課税をするなら,配当金を支払う側には損金算入(経費として扱う)ことを認めなければ,筋が通りません。この論点が抜けているのは,2014年の氏の著書から変わっていません。なんで,このような論考を文藝春秋は載せるのだろう・・・と思った時,はたと気づきました。氏の論考の中にも詳細は「消費税が国を滅ぼす」という書籍を参考にされたいという旨が書かれているのですが,この書籍,文春新書なんです。そう、文藝春秋社の本。な~んだ,プロモーション記事,全面広告みたいなものだったのですね。という意味では,売れるからと出版企画を通した文春新書の編集部が問題で,そして,会社の売上促進のために文藝春秋誌が怪しげな論考を乗せてしまうという構造だったということなのだと思います。メディアとしての矜持は?という話となるわけです。

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