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2014年11月 3日 (月)

「税金を払わない巨大企業」という本

 この「税金を払わない巨大企業」という本は,中央大学名誉教授富岡幸雄先生が書かれた新書ですが,これがけっこう売れているそうです。ただ,困ったことに内容が大きく間違っていて,いわゆるトンデモ本になってしまっていることです。

 みずほファイナンシャルグループやソフトバンク,三井住友ファイナンシャルグループなどが税引前利益に対して1%以下の法人税しか払っていないとして,糾弾している本です。以前から感じるところですが,日本人には「大企業や上手な対策をしている中小企業は,ほとんど税金を払っていない」という都市伝説があるように思います。これを裏付けるような本だから「やっぱり!」みたいな感じで売れちゃっているのかもしれません。

 しかし,上述3社は,持株会社です。そうすると,事業をやっているのは,子会社であり,たとえば,みずほでいえば,持株会社であるみずほファイナンシャルグループではなく,みずほ銀行,みずほ信託銀行やみずほ証券が一所懸命稼いで,法人税を相応の税率で課税されています。そして,その課税済みの利益から配当をもらった持株会社では,受取配当金が課税所得にならないので(だって,そこに課税したら二重課税,三重課税ってなっていきますね。),法人税の課税は非常に少なくなります。

 だから,上記の会社が「うまいことやって税逃れをしている」のではなく,日本の税制通りにやっていると,そうなってしまうだけなのです。日本の法人税制は,法人擬制説という考え方の上で,作られているので,受取配当金は基本的には課税所得にはしないということになっています。しかし,財源探しの影響か,子会社等以外の一般の投資先からの配当金については,50%は課税されてしまっています。なのに,富岡先生の本では,50%しか課税されてない的なニュアンスで説明されているようです。「ようです。」というのはあほらしくて,私がこの本を読んでいなくて,ただ,業界内の噂で聞いているからです。上記の3社が例に上がっているのは,私の義父が「こんなことが本に書かれていたんだけど,本当?」ってファックスを送ってきてくれたから,把握できたためです。

 法人実在説という考え方に立脚すれば,配当金に課税することも可能です。そのような税制になったら,おそらく持株会社は,子会社から配当金をもらうのを避けるようになり,持株会社としてグループ企業全体の経営方針を調整しているという役務に対して,経営指導料を子会社から徴収するという契約に移行するのだと思います。つまり,子会社の経費が増えて,所得が減り,持株会社の経営指導による事業利益が増えて,課税所得が増える。でも,それって,グループ全体での課税所得金額を足していけば,法人擬制説による現在の課税所得金額と同じになるかと思います。

 そもそもですね,日本の法人税制でうまいことやって実効税率を1%以下に落とせるなら,なんで世界中の企業が日本に本社を置かないのでしょうか(笑)<という言い回しは,FaceBook友達のTakashi Nakamuraさんのコメントをお借りしました>。アップルやスターバックスは,アメリカに実質的な本社を置きつつ,アイルランドに2社,オランダに1社の会社を置いて,「ダブル・アイリッシュ・ウィズ・ダッチサンドウィッチ」なる節税法(租税回避策)を駆使していたりします。節税ないし税逃れというのは,それくらいに手数を掛けなければ実行できないのです。皆さん,都市伝説を信じてはいけませんよ。

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コメント

トヨタ自動車は、法人税を5年間、1円も払っていなかったことを豊田社長自身が言いましたよ。昨年5月の決算会見の席上で。新聞は、何故か、決算会見の記事で、触れませんでしたが、ウェブサイトの「レスポンス」と日本経済新聞「電子版」で書かれていました。日経は「新聞」の方では触れていません。

投稿: キミユキ | 2015年2月20日 (金) 14時18分

キミユキさん、コメントありがとうございます。トヨタは、「やっと、今期から納税できるようになった」という話を社長がされていました。これは、リーマンショックにより赤字に転落して、その際の繰越欠損金を埋めるのに5年かかったという意味です。「仮に1兆円赤字を出した翌年に2千億円利益が出たからといって納税させられたら、2年通算では8千万円赤字なのに納税というのはおかしいよね」という当然の原理に基づく繰越欠損金の制度によるもので、この制度は、大企業にも中小企業にも適用されます。したがって、トヨタの5年間納税していなかったというのは、「それほどの傷を負っていたが、ようやく傷を治すことができました」という意味で理解する話なんだと思います。

投稿: 佐久間 | 2015年2月20日 (金) 16時04分

トヨタ自動車は、2008年度に約5000億円の赤字でしたが、2009年からは黒字で、2年で5000億円の赤字を挽回しています。そして、2012年度は、1兆3208億円の営業赤字でしたが、法人税を1円も払っていなかったのですよ。

投稿: キミユキ | 2015年2月20日 (金) 16時32分

入力を間違いました。2012年度は1兆3208億円の「営業利益」でした。
それにしても、新聞各社は、どうして豊田社長の「法人税を払っていなかった。納税できる会社になって、素直に嬉しく思っている」発言を、1社も書かなかったのでしょう?

投稿: キミユキ | 2015年2月20日 (金) 16時37分

損益計算書のベースでの税引前当期純利益と法人税の課税所得はずれるので,回復していたといえるかもわからないのですが,とりあえず繰越欠損金の影響であって,大企業だから税金を納めないですむ仕組みがあるわけではないのですね。そして,トヨタ社長が法人税を払っていなかったが・・・の発言は,その翌日の新聞(すくなくともネットの新聞)には載っていましたよ。

投稿: 佐久間 | 2015年2月20日 (金) 21時14分

豊田社長の発言が載ったのは、ネットの「レスポンス」と日経の「電子版」だけでした(何回も検索したのです)。新聞は、全国紙には掲載されていません。図書館で調べました。日経新聞にも載っていませんでした。「電子版」に出たのに、「本体」である新聞に載っていないというのは異常だと思いました。

投稿: キミユキ | 2015年2月21日 (土) 08時23分

そうですか、じゃあ、私は日経の電子版を見て知っていたんでしょうかね。ただ、全国紙に載らなかったのは、別にリーマンショックと東日本震災の傷が癒えたんだね・・・ということで、記者の方が大きなインパクトを受けなかったからじゃないでしょうか。経済部の記者であり、トヨタ以外の会社の状況も知っているわけですから。社会部の記者が取材すると、「え、なんでトヨタが税金を払っていないの?」みたいな衝撃を受けて、掘り下げはじめるのかもしれませんが。なので、トヨタがこっそり恩恵を受けていて、それを新聞社もグルになって隠しているとか、そういう陰謀めいたことは一切ない税務的には当たり前の話なんだと思います。

投稿: 佐久間 | 2015年2月21日 (土) 09時10分

説得力が無いです。もし、その通りなら、経済部の記者は、世間離れしている、アホばっかりということになりますよね。

投稿: キミユキ | 2015年2月21日 (土) 10時47分

私は,企業やその納税の仕組みがわかっている経済部の記者だからこそ驚かなかったので,こういう内容には世間離れしている社会部だと大きな記事になったかもね,という趣旨で文章書いたつもりですが,説得力がないということであれば,説得されなくても仕方ないです。でも,リーマンショックや東日本震災のような大きな社会変動がない限りは,トヨタは,多額の納税を続けるはずです。

投稿: 佐久間 | 2015年2月22日 (日) 16時20分

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