« 議員は、なぜ社会保険料の連年引き上げに文句を言わないか | トップページ | 輸出免税は益税か? »

2012年6月22日 (金)

こんなことも知らない人が政策を語っている

(名誉?なことにネットの中でこの文章が引用されて議論の対象になっているようなので、少し、補足、補筆を<>に入れてみました。 )

 「増税は誰のためか」という対談集(扶桑社)を読んでいるのですが、その中で、元財務官僚で嘉悦大学教授の高橋洋一氏が次のようなことを語っています。

 国税庁が把握している法人が280万社、年金機構が200万社でズレがあることを指摘したところで「80万件も少ないのはなぜかというと、社会保険料を企業から徴収していないんです。(略)でも、従業員5人以上の会社は、全部、給料から保険料を天引き=源泉徴収しているわけですよ。つまり従業員から保険料を取っておきながら、年金機構には払っていない法人が何十万社もありそうなんです。」という。

 これに対して神保哲生氏が「支払ったと思っていたはずの保険料が、会社のフトコロに入っちゃっている。そんな会社が80万社もあるわけですね。」と相槌を。

 この人たちは、あまりにも中小企業の実態を知りません。中小企業の社長ならおそらくみんな答えを知っています。社会保険に加入したくないから加入していないだけなんです。当然、従業員の給与から健康保険料も厚生年金も天引きなどしません。「国民健康保険や国民年金に加入して、自分で払ってね」と告げ、従業員も社会保険に加入したら手取りの給与が減ってしまうから、入ってほしくなかったり、パートの主婦は、ご主人の扶養家族から外れちゃうので入ったら損をすると思っているだけのこと。納めもしない社会保険料を給与から天引きするような出来損ないの詐欺師みたいな会社は、少なくとも私は見たことがありません。
<年金記録の間違い問題がありましたが、その中には、従業員からの社会保険料を徴収していながら、会社の資金繰りが悪くて払わない、少ない給与額で届けを出して・・・というのがありましたが、これは、年金機構加入済みの200万社の問題です。80万社は加入していないのだから、給与から天引きしようがないです。従業員に健康保険証を渡さすことなく天引きしていたら会社も悪いが、給与明細を見ない従業員にも多少の過失があります。なお、念のために書きますが、健康保険と厚生年金の支払いは旧社会保険事務所にセットで行うのが原則です。なので、健康保険にだけ加入して厚生年金には加入しないというテクニックはないはずです。
 また、主婦のパート問題は、スーパーマーケット業界などが厚生年金の加入幅拡大に反対する背景そのものであり、違法行為とわかっていても(わかっていない?)何十万人というパート主婦等が「あえて社会保険など入りたくない」と思っているし、社会保険事務所の調査の結果、社会保険に加入させた途端にパートの主婦等に退職されてしまったという話も耳にするところです。ほとんど問題ない80万社に濡れ衣を着せるなら、こっちの数十万人への対応が先ですよね。数十万人と書きましたが、ここは統計的には押さえていません。10数万人かもしれないし、100数十万人かもしれません。>

 中小企業のこうした実態を知らずに元財務官僚が政権政党に助言したりしているというのは恐ろしいことだと思いました。彼は、「これは新たに『歳入庁』を作って、税金と保険料の徴収を一緒にすれば解決する問題なんです。」と語ります。しかし、そうなると、毎月の給与から社会保険料が源泉徴収されて手取りが減る人、それとほぼ同額を会社負担分として法定福利費を払わされることで利益を失う中小企業、社会保険に入りたくないと主張すること自体は脱法行為的とはいえ今まで払わないでいた保険料を払わなければいけなくなるパートの主婦など、消費税の増税どころではない国民負担が生じます。大企業は中小企業に十分な利益を取らせてくれません。だから、少しでも安く従業員を雇わなければならない。そこで、「雇ってあげるけど、社会保険料は入らないから、国保に入ってね」となる。
<昔はともかく、今は、会社を作って社長なり従業員なり1人でも常勤状態の人に給与を払ったら社会保険に加入するのがルールです。5人以上になったら入るというのは個人事業の話ではないかな。このあたりの記述でも、高橋さんの発言に疑問があります。でも、それはさておき、「社保完備」と銘打って求人でもするようになるまでは、社会保険への加入はしないというのは、トイレのある公園脇に車を止めてトイレに駆け込む違法駐車や60キロ制限の首都高速を75キロで走っちゃう程度の違法行為と同じような社会に定着した違法だと思っています。ここを厳罰化するならば、たとえばトイレのある公園には必ず駐車場を用意したり、首都高速の渋滞の増加を我慢したり、社会的な準備が必要だと思う、そういう部類の違法行為だと思っているということです。>

 この構造に踏み込まない限り、歳入庁を作って、社会保険への加入を強制したら、まさに80万社に雇用されている従業員給与×社会保険料会社負担分の料率だけ中小企業の利益が失われるわけです。社長と従業員の2人が対象だとしても、80万社×2人×300万円?×10%=4800億円?という金額の納付を社長と従業員の合計2人しかいないような会社群がしなければいけないわけです。社会保険料倒産で死屍累々となりそうな気がするのです。しかし、高橋洋一氏は、徴収されて納付されていない「財源」が中小企業にあると思っているわけで、この誤解は恐ろしいことだと思います。
<10%は、社会保険料の会社負担分を概数として使ったものです。厳罰化には、上記のような副作用があるよ、だから、社会的な準備をなしにやっちゃ駄目ですよと言いたいわけです。少なくとも従業員から天引きしていても社会保険料の納付をしていないというのであれば問題ですが、給与明細も見ないような従業員だけで構成されている一部の企業だけの問題で、少なくとも私は顧問先等でそういう会社は見ていないということを言いたいわけです。>

 税制とか中小企業の実態というものをこれくらい有名な人でも知らないのだということを思い知らされて、愕然としたもので、ブログにまとめてみました。

|

« 議員は、なぜ社会保険料の連年引き上げに文句を言わないか | トップページ | 輸出免税は益税か? »

コメント

これも埋蔵金と思われているんでしょうねぇ(´ヘ`;)

投稿: しょうたく | 2012年6月23日 (土) 08時41分

そう、埋蔵金だと思っているんでしょうね。高橋洋一さん、埋蔵金の権威だから。中には、社会保険に加入し、健康保険証もちゃんともらっていたけど、会社が少なめの算定基礎届を出して、年金が少なかったりする人もいるかもしれません。しかし、80万社について言えば、そもそも社会保険に加入していないはずなんですね。

投稿: 佐久間 | 2012年6月23日 (土) 11時10分

 私は、この文章を高橋洋一さんの語り口に大企業や強者の驕りのような感覚を覚えて、弱者たる中小企業擁護の立場で書いたつもりです。ですから、おそらく中小企業の社長さんたちは、「そうだそうだ」と思ってくれたと思います。
 しかし、その中小企業よりも弱者、ないし弱者のつもりでいる従業員層からは不愉快に見えるのですね。ここは相対的な部分で、中小企業の経営者は、従業員は労働法で十分に守られていて、強者だと思っているわけで。
 その人の立場で、考え方・受け止め方は大きき違ってくるということを学ばせていただきました。しかし、社会の制度の構築に関わる人が間違った知識を持っていてはいけないという点については揺らぎはないですが。

投稿: 佐久間 | 2012年6月24日 (日) 12時52分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/181294/55028542

この記事へのトラックバック一覧です: こんなことも知らない人が政策を語っている:

« 議員は、なぜ社会保険料の連年引き上げに文句を言わないか | トップページ | 輸出免税は益税か? »