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2011年4月28日 (木)

原発問題のまとめ(最終回のつもり)

 2つばかり原発の話を書いてみましたが、Twitterなどに問うてみるとあまり評判はよろしくなかったです。自分自身ではそう悪くない発想だと思うのですが、株主責任というものをわかっていないとか、いろいろな御意見をいただきました。
 
 私の発想のポイントを再度まとめてみると、1つの事故で会社が完全に立ち行かなくなって、「はい、残念でした」って株主が言われちゃうような会社が上場していて良いのだろうか?ということ。株式会社法理からはそれでよいのです。大航海時代に一人で船を用意して、胡椒を買い付けにいったら、嵐で船が沈んで投資資金はパー。だから、何人かでお金を出し合って、5隻の船を用意して、時間差で出航させれば、1隻は遭難したり沈没するかもしれないけれど、3~4隻帰ってくれば大儲け。でも、4隻沈んじゃったら、運が悪かったと諦めるしかない・・・という世界。
 
 しかし、上場市場というのは、そういうものではない。メーカーが上場しようとしていて、上場審査官に「工場が火事で燃えちゃうようなことはないでしょうね」と聞かれれば、「そりゃ、ないとは言えないけれど、火災保険に入っていますから再建できます。」と答えなければ審査は通りません。地震保険会社が上場申請したら、きっと「関西淡路大震災くらいで財務が破綻することはないでしょうね。」「もちろん再保険もかけているし大丈夫です。」「じゃ、東南海地震と東海地震が連動して起きるようなことがあったら?」「そしたら、破綻ですね。払いきれないし、そんな広範囲から一斉に保険請求が来てもさばききれない」なんて、返事をしたら、おそらく「御社は、会社の存続という点での安定性に危険を伴う業種なので、上場には向かないと思います」と断られそうな気がします。これが上場準備をお手伝いしてきた公認会計士の実感的感触。
 
 じゃ、東電は、どうか。1960年頃、原子力発電所を始めて持つ際には、万一爆発したらどうなるんだろう?とか不安もあったと思います。なにしろ唯一の被爆国ですから。最初の原発は、九電力が合弁で出資した日本原子力発電の東海原子力発電所。やがて、数年後、東電の福島第一原発が着工。民間会社で行われることへの不安に対応して、「原子力損害の賠償に関する法律」が作られた、と読みとれるのですが、いかがでしょう。これによれば、原発の事業者が無過失責任を負うとされ、原子力損害を賠償するための措置も講じられていて保険契約などが強制されています。しかし、この無過失責任も「その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。 」と書いてあります。逆にいえば、この規定がないと、東電他、原発を持つ電力会社の上場は維持できなかったのではないでしょうか。万一の原発暴走で、大きな被害を出したら、会社は頓死というのでは、「有価証券の発行及び金融商品等の取引等を公正にし、有価証券の流通を円滑にするほか、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もつて国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とする。」という金融商品取引法の精神は達成できないように思います。東京証券取引所の有価証券上場規程第207条にも「(1)企業の継続性及び収益性」というのが最初に掲げられています。もし、「原子力損害の賠償に関する法律」に天災等への免責がなかったら、上記の上場規程のガイドラインの中の「設備投資及び事業投資等の投資活動や資金調達の財務活動が、経営活動の継続性に支障を来す状況にないこと」というのに反してしまうように思います。

 なので、株式会社なんだから、大きな事故を起こした時には会社更生法でも出して、100%減資して、株主がまず責任を取り、それから国が救済をするのだという順番がそれで良いのかどうかというのは、極めて慎重に判断しなければいけない項目だと思うのです。今回の事故が天災等だったら、東電は免責。なので風評被害も含めて国が責任を持つことになります。また、今回のような津波被害は予測できたので、免責にしないとなれば、そんな危険な原発を一民間企業に運営させていた国の責任が問われてしまいます。結局は、国が責任を持つことに変わりはないような気がします。
 
 私自身は、東京電力株式を持っているわけではないで、結論は、どちらでも良いのです。しかし、言えることは危険な、すなわち思った以上にコストがかかる原発で豊かな電力消費を享受してきたのだから、国民一人一人が超過利得を得てきたのであり、東電株主にまず損失をしわ寄せするというのは、「あいつらは株を持つくらい豊かなんだからいいじゃないか」という感情論が含まれていないか冷静に己を見つめてから発言しなければいけないということ。私としては、この夏のお昼前後に冷房を切って、汗かきながら申告書書くくらいなら、何割か電力料金が上がることで、供給曲線が左方シフトして、需要曲線との交点が左上(すなわちより少ない量、より高い価格)で均衡することで、供給量の制約を乗り切ってくれるのが楽でいいなぁ、という気持ちです。電気代が上がれば、自販機の採算が悪化するので、自販機の台数が減るし、パチンコ屋の開店時間が午後3時になるかもしれませんし。でも、電気代値上げというと、「庶民に損を押しつける値上げには反対」とかいう人が多くなるのでしょう、きっと。私は電気代上がってもいいです、今まで福島や柏崎刈羽の方々の負担の上で、安くて豊富な電力を享受できてきたのですから。
 
 原発に関しては、一応、これで終わりにするつもりです。

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コメント

>民間会社で行われることへの不安に対応して、「原子力損>害の賠償に関する法律」が作られた、と読みとれるのです>が、いかがでしょう。
違うんですよ。原子力損害賠償は世界的な動きなんです。条約があって国内法が整備されています。「天変地変」の部分ももともと条約にあったんですが、チェルノ以降、「天変地変」を事由としない動きになっています。日本は遅れています。金融商品取引法のことは実質的に考慮されていないと思います。「天変地変」については、ウィーン条約改正議定書を批准するために、原賠法から削除する方向で検討が進んでいました。それで上場規定のガイドラインが満たせないのであれば、原発は作れないということになってしまいます。今回の事故は天災がきっかけでも、過失がなかったと言えるでしょうか?過失があっても免責というのはあり得ない話と思いますが。東電の資産をすべて吐き出せば相当な賠償は出来るはずですね。消費者は、否応なく原発で発電された電気を使ってきた訳で電気を選ぶことは(一部のグリーン電力のような特殊なケースを除き)不可能ですから、商品の購入者に責任を負わせるのは無理があると思います。

投稿: maeda | 2011年5月 2日 (月) 22時04分

なるほど、奥は深いですね。90年後半に英国が民営化を進めて、英国配電という会社が上場していましたが、逆に言えば、発電は国有化を守っているのだろうか?とか、もしそうなら、日本の発電も送電も民間という形式が良いのか?とか、その結果、行政指導もできないモンスターになってしまったということなのか、個人で究明できる範疇を超えていますね。
ただ、頓死する可能性があるのに、それがリスク情報に開示されていないまま上場していたなら、そこでの問題も出てきてしまいます。本質的な議論をするなら、いろいろな業種、業界の専門家の知識を横断的に活用しないといけなそうな気がします。

投稿: 佐久間裕幸 | 2011年5月 3日 (火) 12時14分

http://www.jaif.or.jp/ja/seisaku/genbai/nuclear-compensation_pamphlet0911.pdf
のパンフレットに条約なども含めて、書いてありますね。これによるとパリ条約が1968年なので、日本は、条約の発効前に原子力損害の賠償に関する法律ができているようです。また、CSC条約を日本も批准すれば、天変地異の免責などで現行とあまりかわらないということにも見えますが。
ま、奥が深そうで、ブログに書くのは遠慮すべきテーマであることがいっそう明確になってきたように思います。
Twitterなどでわかったようなこと書いている人は、ここまで勉強していないように思いますね。

投稿: 佐久間裕幸 | 2011年5月11日 (水) 10時55分

パリ条約の発効は68年ですが60年に採択されています。パンフにもあるように米国主導というのは事実でしょう。日本で最初に原子力発電が行われたのが63年、最初の商用発電所は66年運転開始の東海発電所(英国から導入)ですが、当時の事故の影響についての認識は現在と比べると極めて楽観的だったと思います。今、東電救済スキームが着々と準備されつつありますが、救済しなくても電気は供給できるし、倒産すれば東電の現在の資産を安く購入して新しい事業(発電や送変電)を始める企業を設立できるチャンスも増えます。温存すれば今までの企業体質が残って政財官界に影響力を保とうとします。巨大な政治力は、例えて言うなら巨大なブラックホールのようなもので、周りの空間を歪めながら富を限りなく吸収してますます強大になるように思います。それは東電以外の社会にとってストレスが大きいのではないかと思います。上場廃止は、東電や関係者にとっては一大事かもしれませんけれど、それが世の一大事と思ってもらっては困りますね。報酬カットなど資金的には雀の涙にもならないでしょう 。

投稿: maeda | 2011年5月11日 (水) 20時02分

 私も東電を救済したいとは思わないですね。東電株主の財産を奪い取るようなスキームは変だろう?というだけで。また、それが必須であるなら別ですが、憎しみの持って行き先として東電&東電株主だ、みたいな意見を吐く議員、評論家がいることは困るよな、という見解。今日も河野太郎が代々木系のようなブログを書いてました。もう少し、落ち着いたトーンで書けば言いのに。
 発電と送電を分離することは、スマートグリッドなどに進むためにも重要。が、そういう方向性での話なら、東電だけでなく、他の電力会社も発電送電分離をやるべきであり、そういう世論作りも必要なのかな。

投稿: 佐久間裕幸 | 2011年5月11日 (水) 22時09分

奪い取るのでなく、無価値になるという現象が当然の帰結として起こるだけというのが普通の会社の株式なのではないでしょうか。会社の全財産を注ぎ込んでも賠償しきれそうもないという状況で、株式に価値が残る方が奇妙でしょう。株主を保護すれば、その分電気料金とか税金とかどこかで国民にツケが回ることになります。結局誰かが払うか、誰も払わないのであれば被害者が損するかという話ですね。

投稿: maeda | 2011年5月13日 (金) 19時57分

 まさにおっしゃるとおりで、株主を保護すれば、その分、電気料金や税金で国民が払うことになります。東電も保安院も地震等の専門家も「想定外の地震だ」と言った結果の災害が法律に定める「天変地異」でないわけがなく、東電だけが裸になれば良いという話しではないと思っています。
 ツケを東電株主か、銀行か、電力使用者か納税者に回すのか?という議論において、十分なリスク開示がなかったのだから、東電株主より電力使用者や納税者に回すべきではないか?という意見を述べているわけです。
 無価値になる現象が事の帰趨として必然的に起こるのではなく、法律の解釈や政府の判断で決まるわけで、「株主にツケを回そう」と政策的に決めた瞬間、奪い取ることになるわけです。ツケをどう回すべきか?の回し先の選択の議論なんですよね、私が最初からしているのは。

投稿: 佐久間裕幸 | 2011年5月13日 (金) 22時32分

まあ、リスクは認識できていなかったのだから、開示することも、ないものねだりですね。いわゆる「想定外」のあたゆるリスクについて、開示されなかったから株主は責任を負わなくてよいというのは、現実離れしているように感じます。なぜ株主は保護されるのに納税者や顧客は保護されないのでしょう?? JR西日本が列車脱線するリスクは事故前から開示されていたのですか?

投稿: maeda | 2011年5月15日 (日) 22時07分

 土曜日の毎日新聞の1面によれば、津波の高さについて設計時の5.5mだけに拘らず、10m以上の津波が来ることも想定したシミュレーションが行われていたそうな。そういうこと、してなかったらあまりにもひどい運営だし、やっていて対応していないのもひどい運営だし。
 要するに私は、国家と東電がグルになった詐欺事件みたいなものだと考えているから、株主が被害者に見えるんでしょうね。でも、国家が犯人なら、その負担は国民に跳ね返ってくるわけで、そこもやむなしと考えています。武富士事件で何十億円だか何百億円の還付加算金が支出されても、そんな国税の運営で不満を持っていなかった国民の責任ですし。
 ちなみにJR西日本の場合は、逮捕者が出ていますね。ちゃんと犯罪として処理されています。それに会社が傾くわけでもない。

投稿: 佐久間裕幸 | 2011年5月16日 (月) 09時01分

 maedaさん、ま、この辺で良いのではないでしょうか。maedaさんの知り合いの中に1人くらい「東電&国による詐害説」を唱える変人がいても。
 今週のダイヤモンドを読んでも、原発のコストって何なの?という記事があったり、原発関連施設を誘致した自治体の交付金まみれ体質の記事があったり、あるいは今朝のテレビでは六ヶ所村の村民1人当たりの平均所得が1000万円を超えるという報道があったそうな。
 いろいろな情報をお持ちの人からは違った世界が見えていても、一般庶民には私のような風景が見えています。東電の時価総額がかつて2兆円あって、それが1/4に減っていますが、2兆円って消費税増税1%に相当します。国民全体でも2兆円というと選挙に負けるかもしれないのに、東電株主に1.5兆円に加えて残る時価総額0.5兆円も負担させることはないだろう?という意見があってもいいじゃないですか。枝野さんによれば、株主保護しても銀行は債務免除に応じるべきだそうですし。

投稿: 佐久間裕幸 | 2011年5月16日 (月) 13時55分

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