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2010年11月 9日 (火)

野口悠紀雄教授の論説への疑問

 早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授の野口教授は、このところ「日本の法人税率は決して高くない」という論陣を張っていらっしゃいます。ただ、どうも結論ありきで、強引な感じがしないでもありません。そこで、今週の週刊ダイヤモンド(11月13日号)144ページの文章を題材に少し書かせていただきます。

 まず、「実効税率」とは、実際に企業が負担することになる税率の意味合いで使われている言葉です。事業税のように損金になる税金も含むため法人税等の税率の合計では本当の負担している税率がわからないからです。しかし、野口教授は、「実効税率と言われているものは、課税所得に対する表面的な税率であり、法人の実際の負担率とのあいだにはかなりの乖離がある。」と指摘します。そして、実効税率の計算では分母に課税所得を取りますが、「分母に会計上の利益を取ると、企業の実際の負担率は、せいぜい30%程度に過ぎない。」と主張します。
 
 と書いたならば、日本とアメリカが唯一の実効税率30%後半の国であって、他の主要国は、ほとんど30%以下の実効税率であるという事実と異なり、実際の負担率(法人税等/会計上の利益)で世界の主要国と比較すれば、同じ30%程度であるということを主張しなければいけないように思われます。しかし、それについては、野口教授は触れていません。また、同じように法人税の実効税率について議論している10月2日号、10月9日号でもこの比較は行われていません。その結果、「日本企業の実際の法人税負担率は30%程度に過ぎず、世界の主要国の実効税率との間に大きな差はない」という誤読を誘引するような文章になっています。
 
 では、外国企業は、30%以下の実効税率と同じ程度の実際の負担率で法人税を払っているのでしょうか。最近のブルームバーグの記事に下記のようなものがありました。
 
「10月21日(ブルームバーグ):オンライン検索の米 グーグルは、海外利益の大半をアイルランドとオランダの子会社経由でバミューダへ移転させる会計手法を利用し、過去3年間で31億ドルの税金を節減していたことが分かった。
 6カ国の監督当局に提出された 文書によると、グーグルが使用した利益移転は、弁護士の間で「ダブル・アイリッシュ」や「ダッチ・サンドイッチ」として知られている会計手法だ。グーグルはこれで、海外での税率を2.4%と、時価総額でみた米テクノロジー最大手5社の中で最低の税率を享受した。」
 
 実際に日本の主要企業が集まって作っている産業競争力懇談会の報告書(http://www.cocn.jp/common/pdf/zei.pdf)では、日本の税負担率が海外に比べて高いことが報告されています。これくらいのデータはグーグルで簡単に見つけられるものなので、野口教授に見つけられないわけがありません。すなわち、野口教授は、何らかの理由で日本の実効税率は高くないという結論に導きたくて、あえて「日本企業の実際の法人税負担率は30%程度に過ぎず、世界の主要国の実効税率との間に大きな差はない」という誤読に結び付く文章を書いて、読者をミスリードしようとしたとしか思えないのです。
 
 もっとも、野口教授の文章の後半部分では、「企業にとっての公的負担で最も問題なのは、社会保険料の事業主負担である。・・・九%近くになり、法人所得課税の三倍近い水準になる。しかも、法人税とは違って利益の有無にかかわらず生じる負担だから、企業のコストを高めることになる」という主張をしており、法人税の実効税率より、こちらを問題にすべきだと言っています。
 
 社会保険料の事業主負担の問題については、私も全面同意です。しかし、実効税率の引き下げと社会保険料の事業主負担の解消と、その両方をするべきところ、一方だけが問題であると言っているのは、実効税率の引き下げを回避させたいという動機があるような気がしてならないのです。偉い先生の書かれた文章だからといって信用はできないと庶民は考えるべき一例だと思いました。

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