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2010年9月 1日 (水)

給与と報酬の違いとそれが及ぼす影響

 昨年12月に「大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて」という法令解釈通達が国税庁から出ています。この手の業種では、職人さん(一人親方などと呼ばれます)に外注費すなわち給与ではなく報酬として支払うのが一般的ですが、給与との区分はこういう基準で判断してください、という通達です。基本的には、請負契約もしくはこれに準じた契約によれば報酬となり、雇用契約もしくはこれに準じた契約によれば給与となります。しかし、その区分が明らかでないときは、次の事項を総合勘案してくださいとなっています。

(1)他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められるかどうか。
(2)報酬の支払者から作業時間を指定される、報酬が時間を単位として計算されるなど時間的な拘束(業務の性質上当然に存在する拘束を除く。)を受けるかどうか。
(3)作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督(業務の性質上当然に存在する指揮監督を除く。)を受けるかどうか。
(4)まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失するなどした場合において、自らの権利として既に遂行した業務又は提供した役務に係る報酬の支払を請求できるかどうか。
(5)材料又は用具等(くぎ材等の軽微な材料や電動の手持ち工具程度の用具等を除く。)を報酬の支払者から供与されているかどうか。

 (1)は、独立して事業をしているAさんに仕事を頼んだ場合に、そのAさんの弟子のBさんも加わって仕事をしたり、Bさんだけが仕事をしても良いなら、これは請負契約だから報酬で良いということです。逆にAさんに頼んだのだから、Aさんがやらないといけないのであれば、給与だという判断なのでしょう。しかし、実際には企業間の取引でも、「今回の仕事の担当は、Aさんがプロジェクトの責任者になってくれるのですよね」といった条件付きの取引はある。それなら、「職人のAさんの腕を見込んでの単価での発注なんだから、Aさんがやってよね」というのも請負契約だとなる余地はあると思います。
 (2)は、朝の8時から18時の間にやってくださいといった拘束を受ければ、給与である可能性が高いということでしょうけれど、工事をそれ以外の時間にやったら近隣から苦情が持ち込まれるので、これは判断基準になるのか疑問に思えます。もちろん、仕事の進捗に関わらず、8時から18時には現場にいなければいけないという拘束がかかるなら、明らかに給与なのでしょう。
 (3)は、同じく指揮監督を報酬の支払者から受けるようなら給与だということなんでしょうけれど、「内装屋さんが壁の下塗りをし終えたら、電気工事に入ってください」というのは当然の指揮監督ですから、給与と報酬の区分の決定打にはなりにくい。
 (4)は、工事現場が火災になったような場合の対処でしょうか。火事になって現場での作業の成果がパーになっても報酬がもらえるなら給与、成果物を引き渡せていない以上報酬がもらえないなら報酬だということですが、通常は、火災保険などに加入するのは元請けの事業者でしょうから、その保険金から下請け業者に報酬を払っても給与だとはいえないのではないかと思うのですが。
 (5)は、一見なるほどという基準ですが、元請け業者の方が材料の仕入れ単価が低いことが多いので、材料や用具を支給した方が全体の工事原価が安くなります。なので、(5)の基準を金科玉条のように適用されたら、みんな給与にされちゃうような気がします。

 以前の通達は昭和28年に出されたものですが、これが改正されるにあたって、(5)の基準は新たに出てきたものであるという印象があります。しかし、これは実態に合わない。もし、これらの5つの基準を厳しく適用されると、今まで請負契約だという前提で外注費を払っていた経費を給与だとされてしまう恐れがあります。そうすると何が起きるか。
 まず、外注費には消費税を乗せて払っていましたので、これが給与にされた瞬間、外注費の5%分だけ消費税の過少申告だということになります。さらに給与なので、源泉所得税の徴収漏れということになります。これは中小企業にとって、大問題になると思います。ですから、外注業者との契約関係は、明確にして、請負契約であることが確実になるようにしておく工夫が必要だと思います。

 ここから先は、憶測です。もしかすると、国(財務省だけでなく、という意味)として、個人事業者を減らして、雇用者を増やそうという戦略があるのではないでしょうか。そうすると、国民健康保険、国民年金の加入者が減り、社会保険、厚生年金の加入者が増えます。当然ながら、無年金問題もなくなるし、怪我をすれば労災保険。仕事を失えば雇用保険。政府が用意するセーフティーネットの中に入ってきます。今は、個人事業者が仕事を失えば、生活保護しかなく、失業保険に相当するような中間的な保護の網がありません。

 と、考えてみれば、政府の経済対策も「雇用対策」が打ち出されたりしていて、「仕事を増やす」という対策はありません。だから、個人事業者はいつまでも干上がったまま。これを解消するための、最初の一歩がこの法令解釈通達であったと考えると、今後のこの通達の運用は厳しく行われるのではないでしょうか。しかし、そうなると外注費を払ってきた中小の建設会社には大打撃が生じます。雇用となれば社会保険に加入しなければいけないので、今までの外注費がそのまま給与となり、それに加えて約20%の社会保険料の支払いが企業を直撃します。消費税の納付額も増える。もらった側、すなわち雇用とされた側も社会保険料を天引きされるので、手取り収入が減る。雇用したからといって、直ちに社会保険に加入させなくたって、ばれていない会社だってあるじゃないか?という意見もあるかもしれませんが、歳入庁構想というのがあるじゃないですか。国税庁と社会保険庁が合体して、歳入庁になったら、税務調査の時に社会保険の加入状況も調べられてしまいます。昨今の経済情勢で、多くの中小企業は赤字ですから、税務調査はあまり怖くないですが、外注費を調べて、消費税、源泉所得税に加えて社会保険加入までさせられたら、ものすごく怖いです。

 もちろん、制度どおりに正しく運営がされるのは良いことです。しかし、ゼネコンが中小建設会社に支払う工事代金の算定ベースは、一人親方への外注費を前提としたものです。ここの単価アップがないままに制度どおりに正しく運営されると、先程のような社会保険料と消費税の直撃で中小建設会社は、倒産に追い込まれる可能性が大です。日本にある会社の数は、200万社と言われていますが、そのうち56万社以上が建設業に属しているというデータがあります(平成17年3月末の建設業許可業者数調査)。日本の会社の1/4が大変なことになるという可能性を認識したうえで、歳入庁構想や通達の運用を考えてもらいたいものだと思います。

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