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2010年7月 7日 (水)

二重課税取り消しの最高裁判決

 税理士のブログなのだから、この判決について触れないわけにはいかないだろう・・・というのは、某ブログ(http://shintaku-obachan.cocolog-nifty.com/shintakudaisuki/2010/07/after2-75e9.html)の書き出しのまねです。でも、判決をどう考えるか、考えながらのブログです。
 
 難しいし、実務にも影響を与えてしまう判決だったと思います。上述のブログでは死亡保険金がみなし相続財産として相続税が課税され、それを受け取った相続人に所得税が課されないのに比較して、年金で分割してもらうと年金としての利回り分だけでなく、所得税が課税されてしまう矛盾を指摘しつつ、判決への賛否を述べていません。う~ん、上手に逃げたなぁ。
 
 とりあえず、判決を読みましょう。国側は、次のように述べて、相続税のあとで年金部分に所得税が課税されてもよいのだと言っています。
 「所得税法9条1項15号は,相続,遺贈又は個人からの贈与により取得し又は取得したものとみなされる財産について,相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除する趣旨の規定である。相続税法3条1項1号により相続等により取得したものとみなされる「保険金」とは保険金請求権を意味し,本件年金受給権はこれに当たるが,本件年金は,本件年金受給権に基づいて発生する支分権に基づいて上告人が受け取った現金であり,本件年金受給権とは法的に異なるものであるから,上記の「保険金」に当たらず,所得税法9条1項15号所定の非課税所得に当たらない。」
 
 この所得税法第9条は、主文で「次に掲げる所得については、所得税を課さない。」として、第15号で「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法(昭和25年法律第73号)の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)」と書いています。
 
 そこで、国は、年金受給権という保険金請求権と実際にもらった年金受給権に基づいて発生する支分権に基づいて上告人が受け取った現金は、異なるから非課税所得にはならないと言っています。
 
 「基本権」たる年金受給権の効力として、一定期日の到来によって具体化して発生した給付請求権を「支分権」と言うのだとすれば、被相続人の貸付債権を相続して、その分割回収があった場合、一定期日の到来によって具体化して発生した元金の一部の請求権も支分権ということになって、貸付金の返済を受けても相続人は所得税を課税されるのか?という疑問が出てしまうわけです。
 
 最高裁は、次のように判決しています。
 「同項柱書きの規定によれば,同号にいう『相続,遺贈又は個人からの贈与により取得するもの』とは,相続等により取得し又は取得したものとみなされる財産そのものを指すのではなく,当該財産の取得によりその者に帰属する所得を指すものと解される。そして,当該財産の取得によりその者に帰属する所得とは,当該財産の取得の時における価額に相当する経済的価値にほかならず,これは相続税又は贈与税の課税対象となるものであるから,同号の趣旨は,相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課さないこととして,同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除したものであると解される。」

 所得税第9条が、「こういう所得は非課税だ」と書いていて、その第15号が「相続で取得したもの」と書いてあるから、この「もの」というのは、「所得」だろう。で、その所得というのは、相続財産の取得時の価額に相当する経済価値であって、その経済価値に相続税又は贈与税を課税してあったら、もう所得税は課税できないはずだという風に書いてあるわけです。
 
 そして、最高裁のホームページで最高裁自らアンダーラインを引いてくれているところを引用すると「これらの年金の各支給額のうち上記現在価値に相当する部分は,相続税の課税対象となる経済的価値と同一のものということができ,所得税法9条1項15号により所得税の課税対象とならないものというべきである。」となるのですね。そして、今回の争いは、第1回目の年金の支給分なので、現在価値への割引分を含まないので、満額が課税対象にはならない、すなわち、年金としての運用部分が今後出てくる部分だけが課税だと考えているようです。
 
 昨今、不動産の売買時価は、収益還元価値でなされたりしますが、では、相続で得たアパートは、その経済的価値でそれが相続税の課税対象となっているから、そこから得られる家賃収入、すなわち不動産所得まで所得税法第9条で非課税となるのでしょうか? これについては、それはないのでしょうね。相続時点で将来までの家賃収入が確定しているわけではないから、支分権のようなものではないから。
 
 では、被相続人が年利5%の社債1億円を持っていて、死亡時点では、利払い日が翌日であった。相続税の評価では未収利息500万円も加えて評価しますが、相続人が実際に受け取った際には、利子税が控除されて、受け取ることになります。この利子税は二重課税となるのかどうか。これはなりそうな気がします。だから、冒頭で書いたとおり、「難しいし、実務にも影響を与えてしまう」と考えました。
 
 ある税理士は、10億で買った土地が相続時点では8億であった。それを13億で売ったら、今の実務では3億円が譲渡所得だが、今度は5億円が譲渡所得となるという判決だと言います。しかし、2億円部分は支分権ではないだろう。だから、素直に下記の所得税法第60条によって従来通り、3億円が所得となるのではないかと思います。
 「居住者が次に掲げる事由により取得した前条第1項に規定する資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす。
 一 贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)」
 
 というように、専門家であるはずの税理士の間でも意見が分かれるくらいなので、「難しい」し、最高裁の判決は強いものなので、少なくとも保険については過去5年分くらいまで遡って更正の請求を認めるような措置が出ると思われるので「実務にも影響を与えてしまう」判決だという理解です。さらに今回の年金部分には、源泉所得税が控除されて本人に支給されています。所得税が非課税となるような年金から所得税の源泉をしてもよいのかどうか。こちらの条文の改正が必要になるかもしれません。また、上記に掲げた社債の事例が正しいのであれば、社債についての源泉所得税の規定も改正が必要かもしれません。しかし、所得税法第9条は、「こういう所得は非課税だ」と言っているので、所得だから源泉する。でも、非課税になる人は、還付すればよいということなら、源泉所得税の規程の改正は不要になるのでしょう。
 
 税理士は、税金の専門家と言われ、税法は読んでいますが、少なくとも私は支分権という言葉を今回の判決で初めて見たような気がします。だから、今回の判決の評釈を誤ってもよいのだと居直ってはいけないのでしょうけど、どう評価してよいものやら、今後の税務雑誌や法律雑誌での判例評釈を読んでみて、自分の考えを固めていきたいと思っています。

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