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2010年1月12日 (火)

日経(1/12)の政府税調に関する記事

 今朝の日経で政府税調について書いた論説記事があった。その中で、民主党からの圧力でゆがめられた改正項目として業務主宰者税制の廃止のことが挙げられていた。税理士会から民主党議員に圧力がかかったためだと書いてある。この税制以来、税理士は「節税商品」を奪われたからだという書き方。

 この記事のスタンスがそもそも間違っている。節税商品というなら言ってもよいが、給与所得控除があまりに有利にできているから、個人事業者が法人を設立して、事業所得から給与所得を利用したくなるだけのこと。有利すぎる恩典は、給与所得者も得ているのである。じゃ、給与所得控除がどのように有利かといえば、次の通り。
 ・給与の収入が162.5万円以下なら、65万円を引いた額が給与所得となる。
 つまり、1年で50万円稼いでも税金はゼロ。103万円稼いでも、基礎控除と合わせて、税金はゼロ。個人事業者なら、住民税と合わせて9万円くらいは課税される。
 ・800万円の給与収入なら、200万円を引いた額が給与所得となる。
 ・1億円の給与収入なら、670万円を引いた額が給与所得となる。
 
 じゃ、この給与所得控除とは何か?という問題には、次のような理由付けがある。
   ・サラリーマンの必要経費である。スーツや書籍代。
   ・給与についての税の補足率が高いのでクロヨン是正のための控除

 しかし、162.5万円以下の場合の65万円の給与所得控除の内訳を説明する資料はない。全額が必要経費? だって、年間70万円稼いでいるパートタイマーがその稼ぎのために65万円も経費を使うか? 使わないだろう。通勤にスーツを着るわけではなく、スーパーではジーンズを880円で売っているのだから。800万円の給与の人が、スーツ、靴、鞄を買い、部下を飲みに連れて行き、本を買って勉強し、家でも仕事できるようにパソコンを買っていたとしても毎年200万円ということはない。
 
 では、クロヨンの金額が大きいのか? いや、それなら、宗教法人や個人事業主など補足率が低いと思われるところに税務調査をすればよい。あるいは、まじめに納税している事業主もいるとするなら、不真面目な事業主の存在を前提に、サラリーマンだけを優遇するのはおかしい。70万円のパートに必要経費がないだろうという想定からすれば、所得70万円の個人事業主は65万円の架空経費を乗せていることになる。すべての個人事業主が不真面目だとして、一律65万円。不真面目な個人事業主が4人に1人なら不真面目な個人事業主は260万円もの架空経費計上や売上除外をしていることになる。本当にそうなのか?
 
 以前、先輩の税理士から聞いた話だが、年末調整を会社にさせるにあたって、所得の低いパートやアルバイトの年末調整まではやってられないから、給与所得控除を多めに設定して、今で言えば103万円までは一律所得税がかからないから、年末調整の手数がないでしょ・・・という理由で65万円のような高額に設定されたのが真実なのだ・・・という。そうであれば、給与所得控除を高めに設定するよりは、基礎控除を70~80万円のように高めにして、給与所得控除は30万円くらいでよいのではないか?
 
 個人事業主もそうだが、会社の社長は、会社が銀行借り入れをすれば連帯保証人。破産のリスクを負う。つまりリスクテイクして、利益を獲得しようとチャレンジした人である。リスクの裏側にベネフィットがなければ、誰もリスクなど取ろうとしないだろう。日経の記者が、会社の倒産リスクがほとんどないままに年収1500万円を得ているとするならば、リスクを取った中小企業の社長が2000万円、3000万円を得て何が悪いのだろう。業務主宰者税制は、給与所得控除のそもそもの矛盾を放置したまま、社長と会社が合わせて1600万円以上稼いだときに、不当に税金が増える悪法だったのだから、なくした民主党の判断が正しく、先延ばしにしようとした政府税調が間違っていたので、是正されたと判断するべきなのではなかろうか。日経は、企業の味方の視点で記事を書くと思っていたが、間違うこともあるのだと認識させられた。税金の勉強してないのかもしれない、最近の記者は。

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コメント

お久しぶりにお邪魔します。
私も記者が勉強不足と感ずる機会は一度ではありませんでしたが、記者もサラリーマンで、社の方針に沿って世の中を眺め記事を書いています。政治的なスタンスはその基本の一つでしょうね。企業寄りと言っても個人事業主寄りで書くとも限りませんしね。
最近、ネットでニュースが入手できるので、どこの新聞社も経営が苦しくなってきていると思いますが、見識ある記者が問題意識を持って取材し書いた記事をデスクが紙面にまとめていくというプロセスは極めて大事です。このプロセスに世間が価値を見いだせなくなりつつあるとすれば、行く先は価値の少ない情報の氾濫かもしれません。
記者も含めサラリーマンには、個人事業者とは違った時間的拘束や行動の制限(例えば政治活動や副業など)もありますし、普通はいくら業績を上げてもポジションが変わらない限り給料は同じです。例えば青色発光ダイオードの発明者の話は有名ですね。リスクは取らないけれど成功しても取り分は会社に召し上げられてしまうので、平均的に見れば上前をハネラレて残りを頂戴しているのだろうと思います(そうでないと企業は成り立たない)。稼げる人から徴税するという考え方もあると思いますが・・・。

投稿: maeda | 2010年1月16日 (土) 00時06分

maedaさん、コメントありがとうございます。
 そう、税金は稼げる人から徴税するという仕組みの部分もあるので、だからこそ再配分機能なんですね。ただ、業務主宰者税制については、立法の趣旨と実際の課税の対象に違いがあり、法律としての出来が悪いように思っています。
 税に関する新聞記事においては、たまに財務省の意向や主張そのままの記事が載ることがあり、記者が勉強不足で反論が書けないのか、そもそも財務省の広報の一翼を担っちゃっただけなのか、疑問を感じることがあります。しかし、今回は、新しい政府税調のあり方を問う記事だったと思うので、そこが財務省の意向だけを伝えているのでは意味がないように思います。
 民主党は、昨年の国会でも業務主宰者税制の廃止の法案を出していたくらいだし、マニフェストにも入っていた。だから、税理士会がねじ込まなくても本来こうあるべきだった結果になったんだと思うのですが。

投稿: 佐久間 | 2010年1月16日 (土) 09時13分

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