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2008年12月11日 (木)

相続税法の大規模改正は消えた?

 8月にこのブログで「相続税改正の動向」というという話を書きました。
http://hsakuma.cocolog-nifty.com/blog/2008/08/index.html

 その際、遺産課税方式から遺産取得課税へと変更されることはさておいて、この改正が増税を意図したものではないか?という話を書いておりました。「納税通信」12月15日号を読むと、「相続税の課税方式を変更すると納税者によっては増税になるとの指摘があり、景気が後退する中での改正に慎重論が相次いだためだ」と書かれています。やはり8月時点での私の嗅覚は間違っていなかったようです。

 納税者によっては増税になる、ということは、納税者によっては減税になったはずなんですが、それでも自民税調で政府税調の昨年答申や1月の閣議決定で決まった事項を葬り去るということは、「多くの納税者にとって増税になるような改正」が目論まれていたんだということが推測できます。

 8月のあと、遺産取得課税への変更についての問題点がたくさんあるのだという話を書きたいなと思いながら、10月辺りからこの変更は少なくとも21年度改正ではなされないのかもという気がして、筆が止まっておりました。どうやら、方向性が見えたので、問題点についてちゃんと書いておこうと思います。

 まず第1に、この制度だと特定の相続人が全部相続するより、法定相続割合で相続したほうが相続税額が安くなりがちです。そのため、農家の相続では、土地が細分化するでしょうし、農家をしていない次男が農地を相続したら、その農地は荒れてしまいます。あるいは寝たきりの親の面倒を見た長男夫婦とニューヨーク駐在の次男が均等に相続したら、「ちょっとおかしくない?」と思うのが普通です。民法には寄与分とかそういう規定はありますが、遺産取得課税ではそれを考慮した課税はできないはずです。

 第2に、こうした特性から、本当は、長男が相続しているのに、次男や長女も相続したことにするという「仮想分割」が起きやすくなります。例えば、銀座のラーメン屋をやっている親のお店を跡継ぎの長男が相続するより、3人の兄弟で相続したほうが税額が安くなるからと、不動産を共有で相続するといったことが起きる可能性があります。そこで、税務署は、相続後も3年後も5年後も、跡を継いだ長男が他の兄弟に賃借料を払っているかどうか、そして他の兄弟は不動産所得の申告をしているかどうかの調査をしなければなりません。あるいは、相続の登記などしないで放置しておこう・・・といった行為も行われる動機になるでしょう。このように手数のかかる税制は、合理的でないし、課税の中立性という租税三原則から見ても正しくないということになります。

 今の相続税制は、昭和30年代前半に作られ、それ以前は、遺産取得課税方式によっておりました。で、それではとても制度として厳しいので、わざわざ現行の遺産課税方式に直したのです。その時の改正作業に関わった財務省OBの方(今は、大学の先生)の講演を聴いたのですが、「遺産課税方式にするべきだ」という主張が挙げる現行制度の問題点は、すべて現行制度の中での改正で解消できるものだといいます。そして、その先生は、「自分の古巣を悪く言いたくはないが、増税のためにする味の悪い改正だ」とおっしゃっておりました。

 相続税増税なら、我々税理士の仕事は増えることになったわけですが、税制自体を考えるならば、今回の見送りは、良いことだったとつくづく思います。自民税調の答申は、明日12日に公表されると聞いていますが、どのような答申になっているか、楽しみです。

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