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2008年8月28日 (木)

相続税改正の動向

 昨年の政府税調の答申で、相続税制の抜本的改正を検討することが提言されています。今までは、相続財産の総額を基準に相続税額を確定し、それを実際に取得した財産の金額に比例配分するという計算方式、遺産課税方式を採っていました。これに対し、今後は、遺産をもらった人ごとに計算をする遺産取得課税方式にしようというのです。従来は、1億円の財産の全部を取得した人の相続税額と10億円の財産のうち1億円だけを相続した人の相続税額では、後者の人の方が高い相続税を払っていました。9億円を他の相続人に渡した控えめな人より遺産を丸ごともらった人の方が税金が安いのは変だという言うのですね。それを改善しようという改正なんですが、それはそれで大きな問題があります。
 
 その問題は、ちょっと置いておいて、この改正により相続税は、課税強化になるのか、現状維持になるのか?というポイントについて、書いておきたいなと思います。どうも、課税強化が考えられているのかな?という気がしますので。
 
 数週間前にネットで流れた新聞にこんな記事がありました。
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 バブル期の地価高騰を受け、相続税が支払えず、自宅を手放すケースが続出したことを受け、政府は基礎控除額の拡大や最高税率引き下げなど納税者負担の軽減を図ってきた。88年度以降、最高税率を75%から段階的に引き下げたほか、基礎控除の範囲も従前の2倍以上に拡大した。しかし、バブル崩壊後に地価が大幅下落したため、課税対象者は死亡者の7%前後から現在は半分近い4%程度に減少している。
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 だから、課税強化しても良いのではないかと考える筋がある・・・といった雰囲気の記事。バブル期に地価が上がって、従来3~4%の人しか相続税を払っていなかったのに7%に上がった事態を鑑みて、各種の緩和策を入れたんですね。その緩和策が効いて、今が4%なら、バブル前の従来と同じ状況を維持できているので、増税の理由はないんですが。要するに意図的にバブル時という異常時期と今を比較して、半分の人しか相続税を納めていないから、金持ち優遇ではないか、とか格差が拡大するのでは?といった世論を導く危険な記事だと思います。バブルの頃には、親が繁華街で経営していたラーメン屋の店舗を相続してラーメン屋を続けようとしても、相続税が払えなくて店舗を売り払うといった悲劇が続出したために緩和をしたわけですから。で、バブル崩壊後2~3%の人しか相続税を納めていないのであれば、緩和策は行き過ぎたという評価もありえますが、無事に従来どおりの水準を維持しているのですね。

 そして、本日、ネットに流れた日刊ゲンダイ2008年8月25日掲載の記事。
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 カネがあるところには、あるものだ。家庭内にため込まれている「タンス預金」が、30兆円にも上ることが日銀の試算で明らかになった。社会に出回っている紙幣の発行残高75兆円の約4割だから仰天だ。タンス預金の大半は、高齢者のモノとみられている。家で眠っているこの30兆円を有効活用する方法はないのか。消費に回れば景気の下支えにもなるはずだ。
 独協大教授の森永卓郎氏(経済学)が、こう言う。
「相続税の課税強化を考えてもいいと思う。相続税が高くなったら、どうせ税金で取られるなら生きているうちに使おう、という金持ちの高齢者も増えるはずです。相続税の最高税率は小泉政権以前は70%だったのに、金持ち優遇政策を取った小泉政権が50%に下げてしまった。少なくても70%に戻すべきです」
 現在、相続税の課税対象は死亡者の4%程度だから、どんなに税率を上げても95%の庶民は痛みを受けないという。
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 タンス預金の話と相続税の増税の話がごっちゃになっています。国民の金融資産は、1400兆円とも言われているわけで、30兆円のタンス預金を活用させるために相続税を増税すると1400兆円がどうなるか?という議論が展開されていない記事です。実は、1400兆円の半分とかは、有価証券であり、そのうちのかなりの部分は、中小企業の株式、すなわち株式会社××青果店みたいな非上場株式だったりします。そして、相続税を納税するような規模の財産には必ずといってよいほど、不動産が含まれています。そこで相続税を増税すると、典型的なパターンとしては、「売るに売れない自社の株式により相続税が膨らみ、相続税を払うためには、親の代から住んでいた自宅を売らないと払えない。」ということになります。そして、郊外のマンションにでも引っ越すような形になると、地縁血縁が断ち切られ、地域コミュニティの崩壊が進むのでしょう。老人の場合、引っ越しを機にボケが始まるなんて話もあります。都心の住宅地では、相続があるたびにその敷地にマンションが建ったり、細かく分割されて建売住宅となると言われます。大きな住宅なら樹齢何十年もの大木があったりして、地域の自然の保持に貢献する部分もありますが、小さな建売住宅には花壇すらなかったりします。美智子様の実家である正田家の敷地が売却されるに当たり、近隣の住民は区に買い取るなり、保全をしてくれ・・・と頼んだというニュースを見たことがあります。資産家には、ノブレス・オブリージュ (高貴な義務)を果たしている部分もあるんだと思います。
 
 財産を持っている人とまったく持っていない人。相続税には、そういう貧富の格差を是正していく効果もあります。しかし、地域のコミュニティの中で暮らし続ける権利や幸せを守れる範囲での課税でなければいけないし、親の仕事を引き継いで中小企業を継続していけるという事業承継の確保という意味合いも重要なのではないでしょうか。
 
 最近の新聞記事を読んでいると、相続税の課税強化への布石が着々と打たれているような気がしてなりません。相続税が強化されると、我々税理士の業務は拡大になるのですが、それでよいのか?と思うのですね。

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